多焦点眼内レンズについて
白内障手術のさいに水晶体のかわりに挿入する眼内レンズには、単焦点のものと多焦点のものの2種類があります。
通常、白内障手術で選択するのは単焦点眼内レンズですが、このレンズですと1か所しか焦点が合いませんので、近くを見ることにあわせたレンズを入れると遠くを見るための近視用眼鏡が必要になります。また車を運転する方などのケースで遠くに焦点が合うレンズを入れれば、お手元を見るさいは老眼鏡が必要になります。
こんなご不便を解決するために、近年では多焦点レンズが開発されました。これを挿入すれば近距離・遠距離の双方にピントをあわせることが可能になり、シーンごとに眼鏡をかけるといった不便はなくなります。
ただし、見え方というのは人によって千差万別で、ある人にはぴったりと合った多焦点レンズが、ほかの人にはどうも調子が悪いというようなことがおこります。そのためにさまざまなタイプの多焦点眼内レンズが開発されています。
だからといって、眼鏡やコンタクトレンズのようにかんたんに作り直しができるものではありません。読書などの細かいものを見ることが多い、よくテレビを見ている、車を運転する、アウトドアのスポーツをするなど、ご自分の生活スタイルに合ったタイプを選択するさいの参考になるよう、以下に当院で扱っている多焦点眼内レンズの種類と特徴を挙げておきます。
当院で手術を受けられる方には、まずは適性検査を受けていただき、その結果をもとに院長とよくご相談いただいた上で、ご自身に一番合うと思われるレンズをご選択いただくようにしております。
多焦点眼内レンズの手術方法
多焦点眼内レンズの手術は、白内障手術の全ての工程が高いレベルで行われなければ決して良い結果は出ません。
多焦点レンズで視力成績に大きく影響するのがCCC(連続前嚢切開)という作業です。この手技は白内障手術の肝であり、精度を高く行うには最も難しく技術と経験とセンスで最も差が出る工程と言われており、手術後も跡が一生残る場所になります。CCCの解説は私の動画などを参照していただければと思います。
このCCCは当院で得意としている手技の一つで、眼内レンズの直径に合わせたサイズで正円に近く描く事を目指します。しかしながら近年世界で流行っているフェムトセカンドレーザー白内障手術は進歩しており、この分野においてついに人間の技量を超えたと言えます。当院でもLenSxという世界で最も使用されているフェムトセカンドレーザー白内障装置を所有してます。このレーザーを使用することによってコンパスで描いたような完全な正円のCCCを眼内レンズのサイズに合わせて自由に設計して照射切開する事が出来ます。これは人間の手では不可能なレベルとされています。
ほとんどの工程をレーザーで行うこともできますが、人間の手が優れている点もまだあります。当院では最先端レーザー白内障手術による科学テクノロジーとダイヤモンドメスによる人間の技術の融合による手術方法で最良の結果を目指します。
またこのLenSxは単独で乱視の矯正を行うこともできます。この技術により使用したいレンズに乱視用がない場合でも乱視を治す事が可能です。
残念な点はこのフェムトセカンドレーザー白内障手術装置は非常に高価なため日本での導入件数が少なく、健康保険が全く適応になりません。
当院でフェムトセカンドレーザーを行う場合、自費診療の多焦点レンズでは問題ありませんが、後述する選定療養や保険による白内障手術の場合は費用が変わりますので注意が必要です。
各レンズの特徴
個々人の見え方は千差万別。それに合わせて多焦点眼内レンズの多様な種類のものが開発されています。ただ、本当にご自身の見え方にあったレンズを選ぶのは難しいものです。当院では患者様のニーズに可能な限り応えるために多くのレンズを用意し、ご自身に合ったものを選んでいただける用意しています。
ここでは、当院で扱っているレンズの種類とそれぞれの特長を参考までに挙げています。当院以外で手術を受けられる方でもご自分にあったレンズを見つける参考にしていただければ幸いです。もちろん当院に受診された患者様には経験から患者さんに最適なものを選択していくようにいたします。
病院選びの重要性
一生の中で一度の白内障手術、とても重要な選択が必要になります。
日本の保険診療では行える治療内容には限界があります。
人それぞれの価値観がございますが、自費診療を行える患者様は、レーザー白内障装置も使用でき、レンズも現時点での最高と思われるものを使用できるので問題ありません。
しかしながら選定療養制度(保険併用)を利用した手術の方は注意が必要です。選定療養ではレーザー白内障装置が使用できないため、医師の技量の差が手術結果に直結します。また使用するレンズは限られたものから選択いたしますが、この度数が合わなければ良い結果は得られません。度数ずれを防ぐにはどれだけ最新の検査機器で検査を行うかが重要です。また、手術を多く行っている医師はその結果をコンピューターに入力し、補正しさらに誤差を少なくすることができます(最適化といいます)。同じ1人の医師が安定した術式で行っている症例数が多ければ多いほどこの計算精度があがります。
この観点から選定療養制度を利用した多焦点眼内レンズ手術の場合、手術件数が多く経験豊富な病院と医師を選ぶ重要度が増すと考えられます。
多焦点眼内レンズの真実
多焦点眼内レンズは多くの種類があります。これだけの多くの種類が存在する裏側にはそれぞれのレンズに利点と欠点があるためです。現状ですべてを満たすものはありません。では単焦点はどうかというと、そもそも焦点が一つしか合わないということがデメリットになります。若い方の自然の水晶体にかなうものは現状存在しません。その中からベストなレンズを選ぶ必要があります。
厚生省認可のレンズが安全か?
日本に代理店がある場合は、自社のレンズを日本で多く販売するために厚生省の認可を通すということを努力します。しかしながら日本に代理店がない場合、自費診療で高額治療になり症例の絶対数が少ない日本では、メーカーが多くの費用を費やし厚生省の認可を通すということはメーカーにとってメリットがあまりありません。欧米で現状で通常使用されている多くのレンズが日本の厚生省では未認可のことを考えると、日本の厚生省認可イコール安全という考えが正しいとは言えません。
眼科医の中では有名な話ですが、厚生省認可のレンズでも6万枚出荷されたが混濁し摘出に至ったレンズで回収されたものや、海外で混濁するということが議論されていたにもかかわらず、厚生省認可のため日本で問題ないと多く使用され続けてきた最中に、海外のメーカーサイドで問題視しメーカー自ら製造工程を改善したレンズなど(日本に支社はありますが保証は一切ありません)、レンズ選びには厚生省認可ということによらない判断が重要と思われます。また前記したように日本に代理店があるからといって保証が行われるということでもあませんので、レンズの選択はとても重要になります。
日本に支店のあるメーカーのレンズは入手はとても簡単です。しかし、厚生省未認可のレンズは納入するためには海外のメーカーと直接やり取りをしなければならないため医療サイドに多くの負担がかかります。またレンズ一つ一つ使用方法が全く異なります。こういった中でも世界で使用されている性能が良いレンズを日本で使用し続けることは医療サイドにも多くの努力が必要となります。
インテンシティー Intensity
現在世界的に評価を得ているHanita Lenses社が2020年7月に開発した最新の5焦点眼内レンズで、5つの距離に焦点を合わすことができます。日本でも広く普及してきましたが、当院は全国一の使用実績があり、院長は学会でもこのレンズについて講演しております。
このレンズの最大の特長である5焦点とは、遠方、遠中、中間、中近、近方の5か所に焦点があるという設計のことで、従来の回折型2点、3焦点レンズが不得意としていた遠方から中間、中間から近方の焦点合わせが可能となりました。このため、日常のあらゆるシーンでの活動をカバーできるのです。実際の成績は加入度数よりも手元が見え、最も遠方から手元まで見えるレンズです。
また、光エネルギーのロスを6.5%と最小限に抑えることができるうえ、さらに瞳孔の大きさに応じて最適な光配分ができるように作られています。また、レンズの構造上、グレアやハローも大変少なく抑えられています。海外の比較論文では通常の三焦点レンズでは15%の人がメガネが必要になったのに対しインテンシティでは0%だったという驚きの結果も出ています。
回折型の中では現時点で当院が最強と考えているレンズです。
エボルブ EVOLE
イタリアのSOLEKO社で作成されている、ハロー・グレアがない多焦点レンズです。焦点深度拡張型のタイプのレンズ。高度の乱視から近視まで対応できるレンズです。日本で使用経験のある医師は少ないですが、選定療養対応のレンズでは到底対応できないレベルの近視や乱視にも対応でき、しかも五焦点ほどではないですが遠方から近方まで連続的に見えるレンズ。ハロー・グレアがないということが最大の特徴でハロー・グレアが少しあっても大丈夫という方はインテンシティ、絶対にダメという人はエボルブがおすすめです。実際の成績は焦点深度拡張型にも関わらずスペック以上に手元が見える方が多くハロー・グレアがなく良好な成績のレンズです。
ミニウェル・レディー Mini Well Ready
イタリアのSIFI MedTech社が開発した、従来の屈折型や回折型とはまったく発想の異なる多焦点眼内レンズで、レンズの表面のカーブによって屈折が異なる球面収差の原理を利用したプログレッシブ眼内レンズと分類されています。
遠方から中間距離で連続して明瞭な視力を得ることができますが、近方に若干弱みがあります。
しかし、多焦点レンズの弱点であるコントラスト感度の低下やグレア、ハローといった夜間の見えづらだが、このレンズではまったくありません。スポーツや夜間の長時間の運転が好きな方や、もともと老眼鏡を使うことがなれているが手元以外は最高品質の見え方を希望する方にはお勧めです。近年は乱視用も開発され乱視の方も安心して受けられる様になりました。
また、当院ではMini Well PROXAという同じ構造で遠方と近方が見えるレンズも採用しているため、優位眼(利き目)に通常のミニウェルを非優位眼にPROXAを使用するFUSION VISIONを行なっており、多焦点が不得意な夜間の見え方に問題なく、遠くから近くまで見える方法を行なっています。
ハローやグレアが絶対にダメという方で若干手元が弱くてもスポーツが好きでアクティブな動体視力を求める方には最強と考えるレンズです。
テクニス オデッセイ Tecnis Odyssey(選定療養可能レンズ)
ジョンソンアンドジョンソンのテクニス シナジーの新型タイプです。シナジーと同様の構造体ですので内容は似ていますが、回折格子(光を前後に振り分ける構造)が若干なだらかになっており、これによって夜間のグレアやハローが軽減できているようです。メーカーとしてはシナジーからテクニス オデッセイに全て移行していく予定のようです。日本では未発売(2024年8月時点)ですが、一部の施設で先行使用で使用されています。海外ですでに良好な報告がされておりましたが、ネット上にはあまり情報が載っていませんので、2024年8月時点で医師個人での使用数は私が日本で一番とのことですので、当院での印象を簡単に記します。シナジーに比べ夜間のハロー、グレアといった夜間異常光視症はかなり軽減できています。また遠方視力がかなり良く、度数ずれにもかなり強い印象です。相変わらず近方視力は良いですが若干弱い場合はマイクロモノビジョンにして行ってもとても良い結果になります。詳しくはお聞きいただければと思います。
クラレオンビビティ Clareon Vivity (選定療養可能レンズ)
クラレオンビビティ(CLREON VIVITY)は、2023年3月より国内で使用可能となったアルコン社の最新の多焦点眼内レンズです。一般的に流通するの2023年6月からですが、国内の選ばれた20施設のみ先行使用が可能となっており、当院もその施設の1つです。
多焦点眼内レンズの大多数は構造上、光量のロス、コントラストの低下、夜間や暗いところでのハロー・グレアなどがみられます。このクラレオンビビティは、焦点深度拡張型(EDOF)レンズという光量のロスがほとんどない構造設計のため、単焦点眼内レンズと同等の高いコントラスト感度が得られ、ハロー・グレアなどの異常光視症が大幅に削減し、遠方から中間距離、実用的な近方距離まで良好な視力が期待できます。選定療養の対象です。
40~50cmの近方の見え方は少し弱いため、眼鏡が必要になります。
当院の使用感としてはミニウェルには劣りますが保険と併用できるため費用を安く抑えることができます。
ヴィヴィネックス ジェメトリック Vivinex Gemetric (選定療養可能レンズ)
Vivinex Gemetric は、日本のHOYA社から2024年夏に発売された三焦点眼内レンズです。HOYA社は以前は屈折タイプの多焦点眼内レンズを販売していましたが、待望の回折タイプのメイドインジャパン多焦点眼内レンズです。見た目はアルコン社のパンオプテックスに似ていますが、回折構造は全く異なります。加入度数は中間+1.75 D、近方+3.50 Dと倍数になっており、典型的な三焦点のものになります。回折構造は直径6ミリの眼内レンズの中央3.2ミリのみで周辺は単焦点と同じで、このことにより瞳孔が開く遠くを見る時や夜間の異常光視症を軽減しております。選定療養対応のレンズの中ではジョンソンエンドジョンソンのレンズに比べ手元の視力は落ちますがバランスのとれているレンズといえます。HOYA社は世界でも開発力がすごく、私が20年前に出席したアメリカの学会でも会場で日本にはHOYAというすごいメーカーがあり日本人は器用だと言われたことを今でも覚えております。また乱視用眼内レンズも0.5Dから対応できる日本らしいレンズです。
アクリバトリノバ Acriva Trinova
オランダのVSY Biotechnology社で開発された最新の三焦点+EDOFプレミアム眼内レンズです。多焦点レンズでは光を遠方と近方に振り分けるために、レンズ表面に特殊な溝が同心円状にきざまれています、このぎざぎざの溝は従来は鋭角ですが、アクリバトリノバでは先端部に丸みがつけられた滑らかな溝となっています。そのため従来の回折型レンズの欠点であった光をまぶしく感じるグレアやにじんで感じるハローといった現象をおさえることができるのです。
また、収差の原理を利用した焦点拡散機能(EDOF)が追加されていますので中間視力の落ち込みが少なく、遠方、中間距離、近方のスムーズな見え方を提供致します。
光量のロスは他の回折型レンズより少ない8%に抑えられており、レンズ度数は広く細かく適応できますので、従来三焦点型の対象とならなかった強度の遠視、強度の近視の方のほか角膜乱視の強い方も適応しやすくなっています。しかしながら印象としては手元の視力が少し弱いという印象もあります。
2017年にヨーロッパで使用されるようになった後、あっというまに世界中で使用が拡がってきた人気のレンズです。
ファインビジョン Fine Vison
2011年にベルギーの社で開発された3焦点型の多焦点眼内レンズです。非球面型のデザインでレンズ中央部と周辺部で働きが異なるよう設計されたアポダイズド回折型です。
遠方と近方、遠方と中間距離という2種類の二重焦点レンズを組み合わせた二重構造に設計されており、遠方と近方だけでなく中間距離もしっかりと見えるため、パソコン作業などで活用できるシーンが多方面にわたり、眼鏡を使用しなければならないケースがもっとも少ないタイプの眼内レンズの一つです。
材質は親水性のアクリルで、コントラスト感度も高く、またアポダイズド回折型の特長としてグレアやハローも最低限に抑えられています。さらにブルーライトカットなどの加工も可能です。
さまざまな生活パターンの患者さんへの適応範囲が広く、現在国内ではもっとも多く選択されるレンズの一つです。
ファインビジョントリウム Fine Vision Trium
通常のファインビジョンと比較してより遠方から近方までを連続してスムーズに見ることができるファインビジョントリウムというレンズも開発されていますが、現状では乱視矯正用のレンズはこのタイプではありませんが、乱視がない方は選択することができます。
眼内レンズが目の中で時間が経って濁ることをグリスニングと言いますがG-FREE テクノロジー(グリスニングしない)という独自の製造工程で長期的に透明な視界を提供するとともに後発白内障も抑制する技術が搭載されています(2010年に特許)
またダブルCループデザインにより目の中で回転することなく長期に安定する構造になっています
CTFプレシジョンレンズ Precizon Presbyopic
CTFプレシジョンレンズは、これまでの回折型レンズとはまったく形状が異なり、遠方と近方のレンズが独自のテクノロジーで均等に分割されています。このフラットなレンズデザインによって、見え方も瞳孔の大きさに左右されにくくなります。これによって、スムーズにすべての距離に焦点をあわせやすく、さまざまに照明条件がかわっても、手術後に発生しやすいハローやグレアといった異常もおさえることができるのが特長です。
遠方から近方のすべての距離でクリアな視界が得られるように焦点深度も強化されました。これによって中間距離の焦点が極端に落ち込むこともなくなり、どの距離でもスムーズに連続して見ることができますので、瞳孔の影響を受けにくいオールラウンドのレンズということができます。
アルサフィット ALSAFIT FOURIER
ドイツのALSANZA社が開発したALSAFIT FOURIERは遠方、中間(75cm)、近方(35cm)の三焦点をもつ回折型レンズです。レンズの中心から外周にむかって溝を高く設計しているため、瞳孔の大きさに関係なく、近方へ光を集めやすいという特長があります。そのため、照明の条件に関係なく、暗所や薄暮時にも中間距離から近方への焦点があわせやすいレンズです。また光透過率は91.4%と非常に高く、すべての距離で高いコントラスト感度が得られます。近方の焦点が35センチに入っているため近方作業に強いことが特徴です。さらに乱視を矯正できるトーリックレンズも用意されていますので、読書など細かい近方を良く見る方にも適したレンズです。
レンティスエムプラスX Lentis MplusX
ドイツのオキュレンティス社製で分節型という他とは違うタイプの多焦点眼内レンズです。上半分が遠方で下半分が近方という遠近両用メガネのような構造をしています。MplusXは遠方部分と近方部分の境目がありませんので、遠方視から近方視へとスムーズにつながって見ることができます。さらに光のロスが少なくコントラスト感度が高いため、他のレンズとくらべて、光をまぶしく感じるグレア現象やにじんで感じるハロー現象が出にくいのも特長です。
ただし、稀になんとなく視界がすっきりしないワキシービジョンを感じる方がいます。
このレンズは12Dという非常に強力な乱視でも同時に矯正できるレンズを注文することも可能で、矯正度数も0.01Dきざみと細かい単位で完全オーダーメードで作成されます。想定したレンズの効果と実際の見え方の差がもっとも少ないレンズの1つです。
特に乱視が強い方にはお勧めできます。
AT LISA
ドイツのカールツァイスメディテック社製の回折型眼内プレミアム多焦点レンズで、3焦点のバランスに優れています。カールツァイスは中原眼科での最先端顕微鏡や眼内レンズ
測定装置の作成メーカーです。2012年に開発されてからヨーロッパではトップシェアを誇っていますが、日本ではこのレンズを取り扱うことのできる医療施設は少なく、とてもプレミアムなものです。しかも専用の挿入器具を使用することで世界最小1.8ミリという傷口から入れることができます。
たいへん適応範囲が広く、今まで多焦点眼内レンズが適応できなかった、強度の近視・遠視・乱視の患者さんでも本レンズなら適応できる可能性が広がっています。
遠方、中間距離、近方をバランス良く配分したレンズ設計で中間距離の見え方を義性にせず近方視力をひきだすことができます。
また、夕暮れ時や夜間などのでも近方の見え方が明瞭であり、まぶしく感じるグレアやにじんで見えるハローといった現象も抑えられているため、夜間の運転など、瞳孔の開いた状態でもコントラスト感度が良好といった特長があります。
レイワントリフォーカル Ray One Trifocal
イギリスのRayner社から2017年に発表されたレンズで、遠方、中間距離、近方の三焦点レンズとなっています。独自のレンズ設計で、照明条件にかかわらず優れたコントラスト感度が得られ、瞳孔の大きさにも視力が影響されにくいのが特長です。さらに、近距離の焦点を日本人の読書時明視距離とされる30cmに合わせることができるのは、このRay Oneとファインビジョンだけです。
このRay Oneは光の損失が11%と非常に少ないのも特長で、これによって距離に影響されないため遠方視力も非常に優秀です。一方でコントラスト感度が高いため、若干ハローやグレアがおきやすいと言われており、夜間の運転が多い方には不向きなレンズです。
テクニスシナジー Tecnis Synagy(選定療養可能レンズ)
ジョンソンアンドジョンソンが販売しているテクニスファミリーの新しいレンズで日本では2020年の夏から使用されています。簡単にいうと下に説明のあるテクニスマルチフォーカルとテクニスシンフォニーを合わせたレンズです。双方のメリットを取り入れつつ、デメリットを最小限に抑えた2焦点+EDOFのレンズです。レンズの構造で色むらを補正してくっきり見えるようにしたり夜間の光のにじみを軽減させる工夫がとられています。日本に正規取扱店舗がありますのですぐに行えるのが特徴です。インテンシティなどの自費診療にはかないませんが、選定療養対応のため健康保険と併用でき、費用を安価に抑えられることがメリットです。
クラレオンパンオプティクス ClareonPanOptics(選定療養可能レンズ)
米国のアルコン社から2019年に登場した3焦点型の多焦点眼内レンズで、遠方から近方までの幅広い距離をシームレスにカバーしているのが特長です。2020年の日本の先進医療保険の終了時の対象レンズとして駆け込みで多く使用され認知度が広まりました。
これまでアルコン社製のReSTORレンズで不得意とされていた薄暗い場所での中間距離や近方距離の作業への適性も大幅に改善されています。さらに同社製レンズの特長である非球面レンズによるボケの低減、薄黄色に着色することによる網膜保護機能はそのまま受け継いでいます。
また同社独自のテクノロジーによって瞳孔径が大きくなるほど遠方への光配分を大きくすることによって、光が必要以上にまぶしく見えるグレア現象やにじんでみえるハロー現象などを抑える努力がしてあります。
このレンズは他の3焦点レンズと異なり日本に流通しているため納期が短いのも特長で、手術を翌日にでも受けたい方におすすめです。
当院では従来の混濁の可能性があるアクリソフ素材は使用しておらず、新型のクラレオン素材を使用しています。
インテンシティなどの自費診療のレンズにはかないませんが、選定療養対応のため健康保険と併用でき、費用を安価に抑えられることがメリットです。
アクリソフレストア Acrysof Restore (選定療養可能レンズ)
米国アルコン社製のアクリル製回折型多焦点眼内レンズ(ReSTOR)で、遠くと近くに焦点が合うように設計されています。瞳孔が大きくなるほど遠方へ光を多く配分するような設計で、光が必要以上にまぶしく見えるグレア現象やにじんで見えるハロー現象を抑えています。また、今まで多焦点眼内レンズがもっとも不得意としていた50cmから70cm程度の中距離の見え方も大きく改善され、国内でもっとも選択されている多焦点眼内レンズのひとつと言えます。
非球面の構造によって、ボケが低減されることと、薄い黄色の着色による網膜保護効果が期待できるのも特長ですが、一方で薄暗いところで近方視力がやや不良になる薄暮視がおこったり、また色彩の微妙な違いを識別しにくくなるコントラスト感度の低下などが起こる可能性があるため、夜間車を運転される方やデザインや印刷など色彩を扱う専門家の方には不向きといえます。また強い角膜乱視のある方にも不向きな部分があります。
全体としては、角膜乱視が少なく、新聞や読書、細かい作業などをされる人、料理や手芸などをされる人など近方視力を重視する生活パターンの患者さんに満足をいただいています。
最近では、角膜乱視を同時に矯正できる多焦点トーリックレンズも開発されました。これによって、これまで適用外とされていた強い角膜乱視の人にも本レンズがご使用いただけるようになりました。
テクニスマルチフォーカル Tecnis Multifocal (選定療養可能レンズ)
米国のAMO社製のアクリル製回折型多焦点眼内レンズです。遠方と近方に焦点が合うように設計されており、前術のアルコン社製アクリソフレストアレンズと同様、国内ではもっとも選択されることの多い多少点眼内レンズの一つです。
著色レンズではありますが、きわめて透明に近いため、他社製の同様のレンズよりコントラスト感度の低下が少ないとの評価があります。
近方視力の調整段階がきめ細かく用意されており、30cm、40cm、50cmから選択が可能で、ご自分の生活パターン(本や新聞を読む、パソコンのディスプレイ作業が多いなど)にあわせた選択ができるのも特長のひとつです。特に30cmに合わせられるレンズは非常に少なく、近方視力をとても重視する方にはおすすめです。
テクニスシンフォニー オプティブルー Tecnis Symfony (選定療養可能レンズ)
米国AMO社製の最新型アクリル製多焦点レンズで2017年に発売されました。焦点拡散型(Extended Depth of Focus:EDOF)と呼ばれるタイプで、従来の回折型に比べ、色収差を低く抑えることができるのが特長です。色収差が低減されるということは、色にじみやズレなどもでにくく違和感が少ないということです。
またレンズに設けられた回折のための溝の形や深さなどを工夫することで、ピントが合う幅を広く拡散しています。
そのため、従来のレンズより遠方から中間距離までの見え方がスムーズで、コントラスト感度の低下が少なく、まぶしさを強く感じるグレア現象やにじみを感じるハロー現象なども低減されています。
したがって、デスクワークが多い方、夜間に車を運転することが多い方などには最適のレンズとなっています。
一方で、近方視についてはやや弱いため、読書などの多い方には適応しにくいと言えます。
アクティブフォーカス Active Focus (選定療養可能レンズ)
アクティブフォーカス眼内レンズは2018年に米国のアルコン社から発売されました。瞳孔の大きさの変化に応じて遠方から近方の光を最適に配分する仕組みと、レンズ中新聞に100%遠方に配分することによって、まるで単焦点眼内レンズのようにハローやグレアがなくコントラスト感度も高い二重焦点レンズとなっています。
そのため、夜間の運転が多い方、アクティブにスポーツなどを楽しむ方などに最適な視力が得られます。一方で、近方の焦点はやや弱い部分があり、読書や新聞などでは眼鏡が必要になることもあります。なお、乱視矯正用のレンズも用意されており、白内障の手術と同時に乱視や老眼の矯正効果が期待できます。このレンズも国内で流通しています。
ゴルフが好きな方で受診後すぐに手術を受けたい方におすすめです。
各レンズ比較表
自由診療の多焦点眼内レンズ
健康保険などの公的医療保険が適用されない診療のことです。多焦点眼内レンズは全て自由診療が適用されます。当院では複数の眼内レンズを取り揃えており、患者さんのご要望に合わせた最適なレンズをご提案いたします。
また選定療養の適応のレンズもございます。
レンズ外観 | |||||
---|---|---|---|---|---|
名称 | Fine Vision |
Fine Vision Triumf |
Intensity | Acriva Trinova |
Mini Well |
光学部デザイン | 3焦点 | 3焦点 EDOF |
5焦点 回折型 |
正弦波 回折型 |
累進焦点 |
乱視矯正 | × | × | ○ | 〇 | 〇 |
焦点距離 | 40cm ~∞ |
40cm ~∞ |
40cm 60cm 80cm 133cm ∞ |
40cm 80cm ∞ |
50cm ~∞ |
得意な見え方と作業 | 運転 パソコン 読書 |
運転 パソコン 読書 |
運転 パソコン 読書 |
運転 パソコン 読書 |
夜間運転 パソコン |
ハロー・グレアの自覚 | 少ない | 少ない | 少ない | 少ない | ほぼなし |
生産国 | ベルギー | ベルギー | イスラエル | オランダ | イタリア |
※横スクロールで全体を表示
レンズ外観 | |||||
---|---|---|---|---|---|
名称 | Precizon | ALSAFIT | Lentis | Ray One Trifocal |
Tecnis |
光学部デザイン | 屈折型 累進焦点 (CTF) |
3焦点 回折型 |
2焦点 分節屈折型 |
3焦点 回折型 |
連続焦点 回折型 |
乱視矯正 | × | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
焦点距離 | 50cm ~∞ |
35cm 70cm ∞ |
40cm ∞ |
37.5cm 75cm ∞ |
33cm ~∞ |
得意な見え方と作業 | 夜間運転 パソコン |
運転 パソコン 読書 |
パソコン 読書 |
パソコン 読書 |
運転 パソコン 読書 スポーツ |
ハロー・グレアの自覚 | やや少ない | 少ない | 少ない | やや少ない | あり |
生産国 | オランダ | ドイツ | ドイツ | イギリス | アメリカ |
※横スクロールで全体を表示
レンズ外観 | |||||
---|---|---|---|---|---|
名称 | PanOptix | ReSTOR | Tecnis Multifocal | Tecnis Symfony |
Activefocus |
光学部デザイン | 3焦点 回折型 |
2焦点 回折型 |
2焦点 回折型 |
エシェレット 回折型 |
アポタイズ 回折型 |
乱視矯正 | 〇 | 〇 | × | 〇 | 〇 |
近視の焦点距離 | 40cm 60cm |
30cm 40cm 50cm |
33cm 42cm 50cm |
50cm | 50cm |
得意な見え方と作業 | 運転 パソコン 読書 スポーツ |
読書 パソコン |
読書 パソコン |
スポーツ パソコン |
運転 スポーツ パソコン |
ハロー・グレアの自覚 | やや少ない | あり | あり | あり | 少ない |
生産国 | アメリカ | アメリカ | アメリカ | アメリカ | アメリカ |
多焦点レンズのデメリット
通常の白内障と同じで内眼手術になりますので眼内炎や他の合併症の起こる可能性があります。
個人差はありますが、予想よりも視力が出ない可能性や、ハローやグレアが気になる場合があります。
※横スクロールで全体を表示
自由診療と選定療養の違い
2020年4月より保険外併用療養費制度内の「選定療養」という枠組みで多焦点眼内レンズを用いた白内障手術がおこなえるようになりました。
「選定療養」とは、国民健康保険や社会保険に加入している患者様が、追加費用(「選定療養費」といいます)を負担することで、 保険適用外の治療やサービスを、保険適用の治療と併せて受けることができる医療サービスの一種です。 追加費用を負担することで、保険適応の治療と保険適応外の治療を併せて受けることができる制度です。
「選定療養」では白内障手術自体は通常の単焦点眼内レンズと変わらず保険適応となり、多焦点眼内レンズを選択することで増える費用についてのみ、自費で追加費用をお支払いいただくことで手術を受けられるようになりました。
難点は選定療養では国内承認を受けているアメリカ製の多焦点レンズにしか適応されず、その他のヨーロッパ製や5焦点レンズやオーダーメイドレンズについては従来通り自費診療となります。またレーザー白内障手術で行うこともできません。
料金表
選定療養(3焦点レンズ) |
342,000円から419,000円 |
---|---|
税込(税抜) | |
---|---|
自費診療 ヨーロッパ製 乱視矯正なし(五焦点など) | 一律 781,000円(710,000円) |
自費診療 ヨーロッパ製 乱視矯正あり(五焦点など) | 一律 880,000円(800,000円) |